中学校の理科の授業で習う植物生理を理解すると美味しい作物を育てられる

今回はいちごの植物生理について説明します。西粟倉・森の学校では未経験でいちご栽培に取り組むにあたり、植物生理の理論に基づいた栽培に注力しています。

植物生理と聞くと「なんだか難しそう」と思われる方も少なくありません。しかし、実際は中学校で習う内容を栽培現場に落とし込むのでさほど難しくありません。

昨今では環境制御スマート農業等のキーワードが謳われていますが、まずは植物の生理生体を理解することが栽培をマスターする1番の近道です。「植物生理を制するものは栽培そして農業を制する」と言っても過言ではありません。

今回は中学校の理科の授業、高校の生物の授業で習う用語の説明をします。いちごに限らず全ての作物にも当てはまることがありますので参考になれば嬉しいです。

光合成(同化):水+二酸化炭素+光で糖をつくる

まずは植物生理の基本、光合成(同化)の反応式は以下の通りです。

          ↓光
水 + 二酸化炭素 → 糖

を根から吸収し、二酸化炭素を葉の気孔から取り込み、光を浴びることで(同化物)を生産する。これが光合成の反応です。植物があるからこそ私たちが呼吸によって排出した二酸化炭素は光合成によって炭素固定されます。

呼吸(異化):糖+酸素でエネルギーを生み出す

光合成とは反対の反応になる呼吸(異化)の反応は以下の通りです。

糖 + 酸素 → 二酸化炭素
↓エネルギー

酸素からエネルギーを取り出し、二酸化炭素を排出する反応です。光合成とは逆の反応です。夜間に光が無い時は植物は呼吸のみ行うためハウス内を閉め切っていると二酸化炭素濃度が上昇していきます。呼吸により二酸化炭素を排出していることが分かります。呼吸は温度が高いと激しくエネルギーの消耗が多くなります。適度な温度管理をして、呼吸消耗を減らしてあげることも重要です。

気孔:呼吸活動や水分が出入りするためのお口

気孔は葉の裏にある、唇のような穴のことです。

気孔の開閉を調整する要素としては、水分ストレス湿度二酸化炭素濃度などが知られています。気孔が閉じる例として植物が水不足に晒されたり、極度な乾燥で蒸散が激しくなると「これ以上の蒸散は無理〜っ!」と植物が判断し、体内の水分を維持するため、気孔を閉じて蒸散量を制限する反応があります。すると、光がある状態でも光合成速度は落ちてしまいます。そのため、光合成を行うために気孔を閉じない水分及び湿度管理が重要です。

また、気孔は光に応答し開口する傾向もあります。そのため、多くの植物は、日中に気孔を開き、夜間は閉じています。気孔から二酸化炭素を取り込むため、気孔を閉じないような環境をつくることが重要になります。

蒸散:気孔から水蒸気が放出される現象

植物の地上部から大気中へ水蒸気が放出される現象のことです。

蒸散は、葉の裏側にある気孔から積極的に行われます。植物体と土壌との浸透圧差により水分が移動し、その水の流れに沿って、無機塩類(肥料分)等が植物体に吸収されます。

また、蒸散は水分の蒸発事態を目的として行われるほか、植物が光合成に使用する二酸化炭素を大気中から取り込む際の気孔開閉も付随して起こります。

転流:美味しい作物づくりに欠かせない、果実に糖を移動させる現象

転流とは、植物体において光合成同化物などがある器官から、他の器官に輸送されることを指します。簡単に言えば、葉でつくられた栄養が果実や根に移動することを転流といいます。

たくさん光合成したとしても、果実に転流・分配しなければ収量には繋がりません。しっかりと果実に転流するような温度管理が重要になってきます。

具体的には、日中温度を高め光合成を促進し、前夜半(夕方〜日が変わるころ)に温度を下げることで、果実に同化物が転流します。光合成同化物は、温かい部位に転流するのですが、夜間温度を下げると水分が多い果実は他の部位と比べて相対的に高い温度になります。

これは、水の比熱が原因です。水は温まりにくく冷めにくい性質を持っているため、他の部位と比べて温かくなるという理屈です。これらの性質を利用して、実にしっかり転流させてあげることで糖がしっかり詰まった果実になります。つまり糖度が高い=美味しい農作物をつくることに繋がります。

まとめ

今回登場した用語を簡単にまとめてみました。

  • 光合成 水を根から吸収して、二酸化炭素は葉の気孔から取り込み糖(同化物)を生産する反応
  • 呼吸 糖と酸素からエネルギーを取り出し、二酸化炭素を排出する反応
  • 気孔 蒸散や二酸化を炭素の出し入れする葉の裏にある穴
  • 蒸散 植物体から大気中へ水蒸気が放出される現象
  • 転流 植物体において光合成同化物などがある器官から、他の器官に輸送されること

それぞれの用語の意味と反応の理屈を押さえることが美味しいいちごづくりの一歩です。植物は話すことができませんが、植物生理を理解しながらよく観察すると美味しさや収量性の向上に必要な要素がよく分かります。

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