美味しいいちご栽培にLOVEは必要か?リービッヒの最小律で制限要因を考える
美味しいいちごをつくるのに必要な要素とは何だと思いますか?肥料?いい土?それともLOVE?
美味しいいちごに必要となる要素はさまざまなもの要素がありますが、変数が多く何がどれくらい足りているか/足りていないかが見えづらいのが現状です。
参考になる理論にリービッヒの最小律というものがあります。
リービッヒの最小律:最も少ない要素によって生育は制限される
リービッヒの最小律はドイツの化学者・リービッヒによって提唱されました。
植物の生長速度や収量は必要とされる栄養素のうち、与えられた量の最も少ないもので生育が制限されてしまう
リービッヒという言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。リービッヒは中学校で習うリービッヒ冷却機を考案したリービッヒさんです。ちなみにリービッヒは植物生育の窒素・リン酸・カリウムの三要素説に基づき化学肥料を作成したため、農芸化学の父とも称されています。
リービッヒの最小律を分かりやすく説明するものとして、ドベネックの桶が有名です。理科の教科書で見たことのある人も多いですよね。
植物の成長を桶の中に張られる水に見立て、桶を作っている板を養分・要因と見立てます。たとえ1枚の板がどれだけ高くとも、1番短い部分から水は溢れ出し、水の高さは1番短い板の高さに合うことになります。つまり、1番短い部分=植物の制限要因とし、その制限要因を取り払うことで、収量・品質を最大化させることができます。
制限要因は時期や作物の状態により変わり、それを見極める力が重要になってきます。例えば、肥料が足りていないと追肥したとしても温度や水が足りていなければ追肥をしても効果がありません。制限要因は何か?1つずつ探りながらベストな環境を探る努力が必要になります。
植物は人間のように言葉を話すことはできません。しかし、言葉を話せないからこそ植物の状態を丁寧に観察し推測することが栽培の面白さでもあります。背丈、葉の色味や艶、根の張り具合などを観察しながら「水を与え過ぎかな?」「光が足りていないかな?」と試行錯誤と施策を繰り返し、結果が出た時には嬉しさがこみ上げてきます。
光・水・二酸化炭素の状態を把握する
今回は基本編。いちご栽培の場合、特に制限要因になりやすいものは重要要素3つを説明します。
- 光
- 水
- 二酸化炭素
植物に必要な光・水・二酸化炭素です。光合成の化学式を考えるとイメージが湧きやすいですね。
■光合成の化学式
↓光
水 + 二酸化炭素 → 糖(光合成同化物)
1つずつ説明していきます。
光が1%増加すると収量も1%増加する
施設園芸の最先端国オランダでは、光が1%増加すると収量が1%増収するという光1%理論があります。
光を増やすには、様々な方法があります。例えば、鋼材の量を減らしハウスの採光性を高める。透過性の高いフィルムを張る。白色防草シートにより光を反射させるなどの方法です。
西粟倉村は山陰地方の中山間地に位置するため、採光性の高いハウス設計に四苦八苦しています。いちごハウスの建設予定地には東西に山があり、冬至付近では夕方16時には日がかげってしまいます。
植物の構成要素の90%は水
単純ですが、見落としがちなのが水です。生育が良くない場合すぐに「肥料が足りていない?」と考える人も少なくありませんが肥料の前にまず水が重要になります。
植物体の構成要素
植物体の構成比の内、90%は水分です。残り10%が乾物です。さらに乾物の構成元素の割合は、炭素45%、酸素41%、水素5%と炭素・酸素・水素で乾物の90%以上にもなります。
つまり、水、二酸化炭素以外の構成要素(つまり肥料分)の割合は全体の2%にも満たないということです。肥料分も大事な要素ではあるものの、まずは水が制限要因になっているかを確認することが重要です。
春先以降、強日射、乾燥により蒸散が多くなり吸水量が増えます。冬場の潅水のままで春先以降も潅水していると樹に制限がかかり弱り、極端な場合は萎れの原因になります。そうなる前に潅水量を増やしていつでも水を取り込める状態をつくってあげることが大事です。
ちなみに私自身のトマト栽培時の経験ですが、給排液EC(肥料の濃さ)が高く、吸える環境化になかったため、給液ECを下げることにより樹勢が回復した経験があります。つまり、水があっても吸いづらい環境下でもダメということです。吸水しやすい環境下をつくるには、EC管理や適正な湿度管理をすることにより吸水を最適化することができます。
二酸化炭素の濃度調整で収量が2割増加する
最も費用対効果が高いものとして二酸化炭素が挙げられます。
冬季ハウス内は締め切られた状態では、二酸化炭素濃度は300ppmを切る程度まで減少してしまいます。これは外気の濃度で400ppm程度のため、かなり低い状態にあります。外気の濃度を維持しながら(ゼロ濃度施与で)、施与するだけでも2割近く増収かつ品質の向上が可能です。
灯油燃焼式のものでランニングコストは10万/10a程度のため、2割増収すると費用対効果はかなり高いことになります。まずは、二酸化炭素の制限を取り払ってあげることが美味しいいちごを栽培する上で大事です。
まとめ
今回はリービッヒの最小律に触れながら、光・水・二酸化炭素について説明させていただきました。西粟倉・森の学校では、いちごの状態と栽培データを観察しながら何が制限要因かを見比べていちご栽培に取り組んでいます。
美味しいいちごを栽培するためには、裏打ちされた理論と飽くなき探求心(LOVE)が最も重要かもしれませんね。
…なんて記事を書いていたら先輩がこんなコピーを教えてくれました。
恋は奇跡。愛は意思。
ファッションビル・LUMINEの広告コピーを長年手掛ける博報堂のコピーライター・尾形真理子さんの名コピーだそうです。もっともっと意思(LOVE)を注いでおいしいいちごを育てようと思ったのでした。