「農業は水やり10年」「水やり朝夕」の裏側にある潅水理論を整理する

ひと昔前になるかと思いますが、農業界にはこんな言葉があります。

農業は水やり10年

そう、水やりに1人前になるまでの時間です。

「そ、そんなに習得するまでに長いの?」と思った方も多いかと思います。

作物のサイクルでは、種まきから収穫、つまり1作を終える時期は種々様々です。

  • 根菜類や葉物類で早いもので1〜3ヶ月
  • 周年栽培をするトマトやイチゴなどの果菜類で1年
  • 数年かけて樹をつくるブドウや桃などの果樹で3年(収穫できるのは30年以上)

と1作のサイクルが長いことから、農家特有の「経験と勘」を習得するのに10年かかるというのです。

データに基づく栽培管理がベースにある私であっても「経験と勘」「データでは見えてこない違和感」といった要素は大事だと思う反面で「水やり習得に10年かかる」と言われてしまうと、農業界へ足を踏み入れるのに億劫になってしまいます。

今日は、そんな水やり(潅水)理論について、理論の習得まで最短1か月、経験による習得まで1年というロケットスタートができる潅水管理について説明します。

「水やり朝夕」は間違い?日中の潅水こそ重要

「朝夕の水やりが大事」という言葉は聞いたことがあると思います。

 ↓光
水 + 二酸化炭素 → 糖(光合成化合物)

やはり水が大切になってくることはこの光合成の式からもわかります。

しかし、光合成の要素として、光があるのは日中になります。

水が必要なのは、夜ではなく日中で、しかも光が強い日中の時間帯になります。

そのため、朝から日中にかけて、光合成がしやすいタイミングでの潅水が重要になってきます。

主な自動潅水の種類

潅水方法には代表的に以下の3つの方法があります。

  1. タイマー潅水
  2. 日射比例潅水
  3. 土壌水分潅水

それぞれを具体的に説明します。

タイマー潅水

毎日△時に▽分間の潅水をするという潅水の方法です。

メリットに設備コストが安価な点が挙げられます。

デメリットとして、日射に応じて潅水量を制御できないため、潅水に過不足が出やすくなります。

例えば、晴天時に足らなくなったり、雨天時に多すぎたりが起こりやすくなります。そのため、家庭菜園など今までの潅水を自動化したい人に向いています。

日射比例潅水

日射量に応じて、潅水量を決める潅水方法です。

ある程度の光合成に最適な環境下であれば、植物が吸う水の量は日射に比例して増加していきます。

そのため、潅水量を日射に比例して潅水することで植物にとって過不足なく潅水することができます。

メリットとして、光合成に最適な厳密な潅水管理がしやすい点が挙げられます。

デメリットとして、日射計等が必要となるため、タイマー潅水よりは設備コストが高くなります。

主にプロ農家向けと言われています。

土壌水分潅水

土壌水分センサーを設置し、土壌水分に応じて潅水をする方法です。

土壌水分センサーを土壌(培地)にいくつか設置しておき、平均がある点を切った時点で潅水をする潅水方法になります。

メリットとして、水分率を低く管理したい場合などに低水分率で管理できます。デメリットとして、水分率計はばらつきがあるため、値を信じすぎると実際のズレがある点です。

また、Dトレイなどの少量培地耕などで栽培をする場合、厳密な潅水管理が求められるため、設備の故障による潅水停止は、命取りになります。主に低水分率で、トマトやメロンを栽培したい人向けです。

日射比例制御の実際

光合成に最も最適だとされる日射比例制御について、図に沿って説明していきます。

主に隔離培地耕の場合での潅水制御になります。土耕栽培での場合、排水性等が変わってきますので必ずしも当てはまるとは限らないです。

まず、黄色の上に凸の放物線を日射量とします。晴天日で雲がない場合は、こういったキレイなグラフとなりますが、たいがいは曇っている時間もあるため、ギザギザしたグラフになります。(スケールは任意です。)

青くてギザギザしている線を水分率のグラフとします。水分率が上がっている点は、日射に比例して潅水が入って、水分率が高くなっていることを示します。

また、赤の点線部は潅水を考える上での時間軸での重要なポイントとなります。

  1. 潅水開始時間
    ①の潅水開始時間の目安は、日の出後1〜2時間に設定します。
    日の出から1〜2時間で、植物が光合成をしだしたタイミングで潅水をスタートします。
    一般的に冬場の日射が少ない場合、開始時間を遅く、夏場の日射が多い場合、開始時間を早めます。
    冬場と夏場では、日の出後の時間が同じであっても、日射量は全く違うためです。
  2. 排液開始時間
    排液開始時間それはつまり培地内が満水になって、余剰水があふれる時間のことを指します。
    日中、もっとも日射量が強くなるのは太陽が南中にある正午です。
    そのタイミングで最も日射ストレスは強くなり、光合成は活発になります。
    それまでに、培地内を満水にして、蒸散しやすい環境下をつくることが大事になります。
    おおよその目安として、排液開始時間は、潅水開始から2~3時間程度で前後させます。
  3. 潅水停止時間
    一日の最後に潅水が入る時間を潅水停止時間と言います。
    この時間の目安は、日の入り前2〜5時間程度が目安です。
    また、後程説明する潅水が終わってからの積算Jのあまり具合、「たまりJ」を見ながら時間を決定します。
    トマトで言えば、潅水停止時間を早めれば、生殖成長によせる管理ができます。

続いて、水分率落差の図です。

スラブ満水の時間の水分率が最も高いとすれば、朝の潅水が入る直前が最も低い水分率となります。

主にトマトの場合ですがこの水分率の差を水分率落差とし、目安は10~15%程度で管理します。

水分率落差をつけるには、潅水停止時間を早めるか、潅水開始時間を遅くするかの2つあります。

植物の状況や時期に応じて、この時間を変更して水分率落差をコントロールすることで、栄養成長と生殖成長のバランスをコントロールすることができます。

もう少し細かく見ていきましょう。

赤線は1日の日射量を積算した積算日射量になります。また、水色の矢印が日中の水分率落差、紫の矢印が夜間の水分率落差になります。

潅水停止時間から、日の入までで余ったジュール(以下:J)のことをたまりJと言い、このJの量で、潅水停止時間の目安を決めることができます。

培地量や、植物体のステージにもよりますが、トマト栽培の場合、冬季で400J、夏季で200J程度を目安に管理します。

植物体に対する培地量が多く、水を含みやすい場合は、たまりJを大きく、培地量が少ない場合は、たまりJを少なく管理します。

また、水分率落差15%だとすればおおよその内訳ですが、日中水分率落差10%、夜間水分率落差5%程度になる傾向があります。

次に、紺色の線は、排液率のグラフになります。以下の式で算出できます。

排液率 = 排液量/給液量 ×100

排液の出具合を見ながら、潅水が足りているかどうかが判断できます。

一般には、植物体にばらつきがあり、吸水量が多いものもあれば少ないものもあるため、全体的に必要量より少し多く潅水することで、ばらつきを減らすことができます。

2~4割程度を目安に排液が出るように調整します。(曇天時は10%以内でも可)

排液率の状態は、グラフの通りで排液開始から、正午の最大日射になるタイミングまでに3割程度排液を出して、培地内の養水分を入れ替えた状態にすることで養水分吸収をしやすくします。

午後以降は、3割程度の排液率をキープしながら潅水をしていきます。

排液率の計測方法ですが、具体的には、給液量を水量計で計測して、排液水を集めて水量計で計測すれば排液率が決まります。

もっと簡易な計測の仕方は、隔離培地耕の場合、1列もしくは1バックから出る廃液をバケツで汲み取ればおおよその排液率が計測することができます(ハウスの中心部、端で割合が変わります)。

また、土耕栽培の場合、木枠などで一部を囲って、余剰水を集めることでおおよその排液量が分かることができます。

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