森の学校

北海道で厚真町・森の学校を立ち上げ原木流通を推進 豊富な森林資源を活かす質の流通を目指す

西粟倉・森の学校は北海道・厚真町に支店をつくり、広葉樹やマツ類を中心とした原木流通に取り組みます。国内随一の広葉樹資源量を誇る北海道で森林資源の価値向上を目指します。

「西粟倉・森の学校が北海道でどんな事業をやるの?」
「厚真町ってどんな町なの?」

岡山・西粟倉村を拠点に12年間モノづくりに取り組んできましたが、2つ目の拠点を北海道・厚真町に立ち上げ、事業を展開します。今回は厚真町・森の学校(仮)の展開に関わる2名から話を伺いました。

話し手
西粟倉・森の学校 流通部長・西岡 太史、代表取締役・牧 大介
聞き手・書き手
西粟倉・森の学校 営業部長・羽田知弘

製品を作りたくても丸太が仕入れられなかった創業期

西粟倉・森の学校は2009年に廃校になった小学校の職員室で産声をあげた会社です。創業から12年経った現在はスタッフ30名弱で木材加工販売に取り組んでいます。DIY用の木材1枚から公共建築物の木材供給まで幅広く木材加工・流通に携わっています。2021年には工場をリノベーションしたカフェ運営いちご栽培もスタートし、森を軸にした事業展開を進めていきます。

まずは木材加工工場の立ち上げ期から西粟倉・森の学校に参画し、現在は流通部長としてプロユーザー向けの製品販売や原木流通に取り組む西岡から話を伺いました。

西岡 太史|流通部長 1981年生まれ兵庫県姫路市出身。祖父母のお墓が西粟倉村にあったことがきっかけで移住し、木材加工工場の立ち上げに参画。3人兄弟の父。両親も村に召喚し大家族移住。村内少年ソフトボールチーム監督。

創業当時を振り返りながら西岡は苦笑いをします。

「入社して最初の仕事は製材機を買うためにインターネットで「せいざいき」と調べたことですね(笑)。今では笑い話なんやけど当初はほんまに何も知らんかったんやな」

経験のない素人が集まり、経験なし・機械なし・顧客なしの状態で始まった木材工場ですが、工場を借り、人を採用し、機械設備を導入して…と暗中模索・五里霧中の日々を過ごしながらも準備が整いました。しかし、木製品の原材料となる丸太の仕入れも一筋縄ではいきません。

「フローリングを製造するための丸太を仕入れに原木市場に出掛けるんやけど、全く丸太を買わせてもらえんかったんですよ。良い丸太がどんなものか分からへんし、季節に応じた適正価格も見えへん。でも丸太を買わないとモノづくりができん。そんな調子だから『あんな会社どうせすぐに潰れるわ』と言われ続けて悔しかったですね」

数え切れない失敗をしながらも多くのお客さまやパートナーに支えていただき、創業12年を迎えることができました。小学6年生。まだまだ子どもですが少しずつできることも増えてきました。

5年10年と事業を続ける過程で原木に関する知識と経験が増えました。住宅用内装材を製材するために適した丸太の品質やサイズ、適正な価格を判断しながら仕入れることができるようになりました。良い製品づくりは良い丸太の仕入れから。西岡が口を酸っぱくしながら社内で唱えつづける方針です。

品質に見合う価格で安定的に丸太を仕入れる難しさにチャンスあり

毎週のように原木市場を訪問し同業者とコミュニケーションを取っていると、同業者もまた原材料=丸太の仕入れに苦労していることが分かりました。良質な丸太を適正価格で安定的に仕入れる流通基盤は自社だけではなく同業者にも必要とされていたのでした。

「工場の規模が大きくなればなるほど機械を止めることは機会損失になります。製品を作り続けるために丸太を常に貯めておく必要があるんですね。地域や季節によって丸太の品質や価格も変わる中、良い丸太を安定的に仕入れ続けたいという要望は強いですね」

西粟倉・森の学校では自社で丸太を仕入れ加工するだけではなく、チップ工場や合板工場、木材商社などに丸太を販売する原木流通事業に取り組んでいます。簡単に言えば、山で伐り出された丸太を独自に仕分け販売をしています。

「道の駅でダンボールいっぱいに詰められたみかんが売っているじゃないですか?サイズはバラバラだけどまとめて買うと安いよって。山で伐り出された丸太はあんな状態です。つまりサイズも品質もバラバラ。ええモンもあれば悪いモンもある。だから、品質ごとに丁寧に仕分け、量をまとめ、販売する。合板工場と製材工場とでは求める丸太の品質や価格、量が大きく違うんです」

チップ工場、合板工場、製材工場。丸太を仕入れ加工する工場はさまざまです。製造する品目によって求める丸太の品質や価格、量も異なります。そして丸太の品質や価格は地域や季節によっても大きく異なります。

各工場の原木仕入れ担当者は原木市場や山土場を訪れて丸太を仕入れますが「求める品質に値段が見合わない」「原木市場で購入できなかった不足分を今月中に集め切りたい」と苦労することもしばしば。

丸太は重くて・安くて・嵩張るという特性を持つため、価格に対する物流コストが高くなりがちです。遠方地域で安く丸太が買えたとしても運送費が高くなり過ぎると割に合いません。

「鳥取のお客さんがこれぐらいの量を欲しいって言っとったな、この価格だったら兵庫のお客さんが買ってくれるな、といった感じでパズルを組み合わせるような面白さが原木流通にはありますね。自分たちの思う通りにピタッとハマって流通させられた時は気持ちええしお客さんも喜んでくれますね」

原木流通事業は自分たちの困りごとから始まっています。自分たちがモノづくりをし続けるために必要となる丸太の品質や価格があるからこそ知識と経験が身につきました。そして、同業者のお客さまの困りごとも分かるようになり事業として進み出しました。

そして、話は北海道・厚真町へ。北海道に多く自生する広葉樹や成熟した人工林(マツ類)には大きなポテンシャルがあると考えています。

国産広葉樹の需要は高いが価格も品質も安定しない

「国産広葉樹のフローリングを施工したい、家具に使えるミズナラが欲しい、といった相談をもらうことは多いです。森の学校としても広葉樹の製材や流通は取り組みたい領域やけど、広葉樹が難しいのは品質や数量が安定しないことですね」

厚真町・森の学校(仮)は厚真町内に土場を確保し、厚真町を中心に道南エリアで搬出される原木(マツ類広葉樹)を流通・販売する事業を立ち上げる予定です。チップ工場や合板工場への販売を中心に、量ある流通だけではなく質ある流通も目指します。

国産広葉樹の家具や内装材は強い需要がありますが、品質や数量が安定しないことが課題です。自社で広葉樹を仕分け販売することで北海道産広葉樹を生かした住宅用内装材や家具を開発し、質の高い製品づくりの展開も視野に入れています。

「厚真町では年間20,000立米の素材生産量があります。広葉樹については木炭原木シイタケホダ木としての利用されるけど、そんなに物量は多くない。多くはパルプ用チップになるか旭川市(北海道唯一の原木市場がある)に持って行くかのほぼ2択しかない。厚真町やその近隣で伐り出される丸太を厚真町内に集めて、丁寧に選木し流通させることでより大きな価値を生み出せるはずやと思ってます。ダンボール箱みかんの叩き売りではなく、丁寧に仕分けることで贈答用、菓子加工品と新たな価値を生み出していきたいですね」

北海道の広葉樹やマツ類のポテンシャルの大きさや流通の全体感について説明していただきましたが、そもそも厚真町はどういった町なのでしょうか。

厚真町は豊かな自然と生活利便性に優れたバランスの良い田舎

厚真町は北海道南部にある町です。いわゆる道南エリアに位置します。北は夕張山地、南は太平洋に面しており、厚真川の流域=厚真町の町域で広大な山林を有しています。ハスカップという北海道名産の果実の作付け面積が日本一の農業が盛んな町です。

旅客数2,000万人越えの空港・新千歳空港から車で約30分と交通の便が非常に良く、札幌へは車で1時間半、千歳や苫小牧などへは30分ほどの距離。自然が豊かで生活利便性にも優れたちょうど良い田舎と言えます。

厚真町は面積の約7割が森林です。うち33%が人工林、67%が天然林と天然林率が高いことが特徴です。内地でイメージすることの多い急峻な山々ではなく、北海道らしい林や丘のような森が見渡す限り広がっています。

2018年に北海道胆振東部地震が発生し、震災による崩壊地の森林再生のあり方も問われています。豊富な天然林を生かしながらも森林活用環境保全経済性のバランスをどう取っていくかが今後の課題です。森林資源=木材と狭義の捉え方をするのではなく、多様な森づくりが人の生活をどう豊かにしていくのかも重要な視点だと考えています。

北海道の豊かな森林生態を生かした事業展開を目指す

西粟倉・森の学校の代表・は厚真町での事業の未来を想像しながら口を開きます。

牧 大介|代表取締役社長 1973年生まれ京都府出身。京都大学大学院を卒業後、民間シンクタンク、アミタ持続可能経済研究所・所長を経て現職。エーゼロ株式会社の代表取締役を兼務。魚釣りが大好きなロマンチスト。

北海道にはトドマツやエゾマツといったマツ類針葉樹や豊富な広葉樹天然林があります。森に多様性があるということです。木材生産だけではなく、多様な森の価値を商品やサービスとして提供することも視野に入れています。

「厚真町で安定的に原木を流通する基盤をつくることができれば様々な可能性が広がるよね。例えば、北海道の広葉樹で家具を作ることはもちろん、豊富な広葉樹林でセイヨウミツバチを養蜂し蜂蜜を採ったり、バイオマス発電の排熱を利用していちご栽培もできるかもしれない。広大な土地と森の多様性を生かした北海道らしい事業を展開したいね」

西粟倉・森の学校では周辺地域で伐り出された杉・桧を用いて住宅用内装材の製造に取り組んでいますが、北海道らしいマツ類や広葉樹を利用したモノづくりができることを楽しみにしています。国産マツ類や広葉樹には大きな需要があることも分かっています。

  • 家具用材やフローリング等の国産広葉樹の流通・販売
  • 多様な広葉樹林を生かしたセイヨウミツバチの養蜂、蜂蜜の販売
  • バイオマス発電所の排熱を利用したいちごの栽培

まずは原木流通を主軸に道南エリアでの木材サプライチェーンを構築するのが最優先ですが、今後は厚真町の多様な森のポテンシャルを引き出せる事業展開を進めていく予定です。

「厚真町って岡山をはじめ内地の人には馴染みが無いし、2021年に西粟倉村でオープンするカフェでジンギスカンや北海道産蜂蜜を取り扱ってもいいよね。逆に西粟倉村の杉・桧を北海道で売ることもできそう。地域にこだわらず良いモノづくりと適切な流通を通して地域の可能性を掘り起こしていきたいね」

北海道の木材流通は可能性を秘めている

牧は北海道の林業・木材産業、そして未来の森林生態系のあり方を見据えて続けます。

「厚真町は森林を多く抱えていながらも林業会社が少なく、森林整備の担い手が少ないのが現状。また北海道の林業の多くは針葉樹も広葉樹も多くがパルプ市場に流れチップとして流通しています。針葉樹の一般材では薄利多売的な製品に加工されることが多いとも聞いています。これでは多様な魅力が活かし切れないよね。だからこそ、そこにイノベーションの可能性があるんじゃないかな」

パルプ用材としてチップに砕かれしまう丸太の中にも製品化できる品質のものは数多くあります。そして、厚真町の広葉樹林は多様な樹種構成が魅力です。樹種はもちろん、太さや曲がりも組み合わせると無限に分類することができます。それを面倒だからと全てチップにしてしまうのはもったいない。

1本1本の丸太を見極め適切な価値を見出してお客さまに届ける。北海道のメインストリームである量の流通にはない質の流通が必要だと考えています。結果的にそれが地域資源の可能性を諦めない人の手と地域資源の組み合わせで価値を最適化する、という私たちのテーマにも繋がると信じています。

「従来よりも高い価格で買い取れる木材が増えればこれまでよりも林業を収入源として考えてくれる方が増えるかもしれない。それによって率先して森林整備をする人も増えることだって考えられる。これまでとは違う質のアプローチで丁寧に木の魅力を引き出して製品化する。厚真町らしい林業の6次化のあり方を模索したいね」

厚真町周辺では様々なプレイヤーが事業を展開しています。木材の多面的利用や新規雇用に積極的に取り組んできた素材生産業の丹羽林業をはじめ、馬を活用した林業を実践する西埜馬搬、製材工場設立を目指す木の種社、数えればキリがありません。厚真町をはじめ北海道をより面白い地域にしたいと事業に取り組む多様性のある仲間たちの存在が非常に心強いです。

事業担当者・西岡から一言

難しいチャレンジだからこそやりがいを感じ、達成感を得られるものだと考えています。そして、新しい事業を生み出す醍醐味が西粟倉・森の学校にはあります。既にある道を効率的に走ることを目的にするのではなく、あらゆる可能性を模索しながら自ら道をつくっていく、そんな会社です。

ぼく自身も12年前、西粟倉・森の学校の創業期に入社し、さまざまな道づくりに関わってきました。数え切れないくらいの失敗もしてきました。どのプロジェクトも業界の慣習や既成概念にとらわれず、新しい価値をつくり出すことに集中してきました。地域資源の可能性を諦めず、新たな価値を生み出すチャレンジを北海道・厚真町で取り組んでいきます。

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